15cm

 ざざっざざっ。

 待合室で本を読んでいた私は、その不規則な音の正体を知りたくて顔をあげた。

 歩幅が15cm足らずの老人が、びっこを引きながら前方から歩いてくるのが見えた。

 レントゲンの検査らしかった。

 何らかの病気をして、それでもここまで快復して歩けるようになったんだろうな、と思いながら本に目を戻した。

 ざざっざざっ。
 
 すぐに後方から音がした。

 あれ、レントゲンではなかったのかな、と思っていたら、壁際にある階下にいく階段の方に向かって行った。

 あーMRIかCTの検査だったんだなー。

 老人は、病院にしては若干急な階段の降り口まで来て立ち止まった。

 あきらかに躊躇している。

 ここを本当に降りるのか、降りなければいけないのか。

 誰かに助けを求めようとしている躊躇さではなかった。

 ふと考えた。ここの近くにエレベーターはあっただろうか。
 病院のエントランス近くにはエレベーターはあるけれど、そこまでの50mを歩幅15cmで行き、エレベーターで降りて、また50mを引き返してくるのと、意を決してここを降りるのとどっちが楽だろうかと考えていると、どうもこの階段を使うらしかった。

 両手をいっぱいに広げて、階段の両方の手すりに掴まった。

 身体を支えながらなら降りられるかもしれない。でも。

 時間にしたら2、3秒。でも、老人にも私にも、その時間はとても長かった。

 ほんのちょっとだけ躊躇した後で、意を決して右足から一歩、いや一段降りた。

 左足も一段下ろした時点で、そわそわしだした。

 そう、この階段は人が同時にすれ違うことができるくらいの幅はあるんだ。

 もし下から人が来たら、背後から人が来たら避けなければならない。

 でも、両手で手すりを掴んでいるから、そうでないと身体を支えられないから、それは無理。

 誰も来なければいいが。

 来るのなら、今両足が同じ段にいて安定している時がいいんだけれど。

 もう身体全体でそんな事を言っている老人。

 わかるよ、とっても不安なんだよね。

 また一段降りた。さっきよりも軽快に。

 そしてまた後ろを振り向く。大丈夫だ、行ける。
 
 今度は、もっと軽快にそれでも慎重に階下へ下って行った。
 



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by WofNaka | 2015-01-16 08:07 | 日記 | Trackback | Comments(0)  

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