六道辻
2021年 01月 01日
今日は車で、遠いところに出かけたくなって、目的もなくレンタカーを走らせた。
日が陰って、薄暗くなった頃、海岸にたどり着いた。
この海岸は、山が迫ってきている狭い海岸だった。
道は海のすぐそばまで通っていて、その先は見えなかったけれど、道を進んだ。
最後はもう、左手側がガードレールもなく、その下はごつごつした岩が続いていたし、右手側は崖になっていた。
車1台分の幅しかなかったが、そのままゆっくり進んだ。
このまま、道がなくなってもいいかな、と思っていた。
ほどなくして、道が車の幅よりも少なくなって、これ以上は進めなくなった。
しばらく車の中にいたが、少しだけバックして、車から降りた。
外は肌寒かったから、車の中に置いてあっコートとバッグを取り出して、車の先を徒歩で進んだ。
しばらく行くと、上にある小さな漁村からの別な道と合流、その先には、道の右側が崖ではなく柵になっていた。
そこからさらに進むと、道が波しぶきでドロドロになっていて歩きずらかった。
ちょっと油断しちゃうと滑って、海に落ちそうな、そんな道だった。
柵の向こう側には老いた人が、何人か歩いていた。たまに、こっちを見るけれど、誰も声はかけなかった。
ただ、興味があるといった風だった。
私は足元を気にしながらさらに進んだ。
もう右手には柵がなく、崖までが波しぶきでドロドロになっていた。
この先は、もう道もない。
私は自分が何をしにここまできたのかを計りかねていた。
少なくとも生きようとしてここに来たわけじゃない。それだけはわかっていた。
しばらくして、もう辺りは真っ暗になってしまった。
かろうじて、今来た道だけがわかる。
このまま、ここにいたら、どこかで判断を誤ったり意識を無くしたら最後、ここから滑り落ちて命に関わるのは目に見えていた。
気温も一気に下がってきて、ふと、われに返った。
戻ろう。
慎重に足を今来た方向に向けようとするんだけれど、滑ってしまう。
手を崖に着いても滑ってしまう。
もう、力加減が微妙だった。
ともすれば動けなくなる。
なんとか、少しずつ少しずつ後ろに下がる。
ドロドロの崖から、ちょっとだけ草が生えている崖に取り付くことができた。
今はこの草だけが頼り。力加減では抜けそうだけど。
そのうちに、足が、ドロドロしたところから解放された。
風が強くなってきて、崖から落とされそうな感じだった。
手が何かに触れた。
柵だった。
その木製の朽ち果てそうな柵が私の命のよりどころになった。
気が付くと、柵の向こうに人影があって、こちらを見ている。
いつ落ちるのか、戻れるか、そんな思惑が手に取るようにわかった。
なんとか、さっきの上からの道があるところまでたどり着いた時だった。
海の側から、男が私のベルトを掴んで、そこにいたおばさんに語り掛けた。
いいか、と。
おばさんは言った。 この人は大丈夫な人だから、手を放してあげて。
男は私のベルトを離して解放された。
おばさんは、こっちへ、と私に言った。
寒かったでしょう、さぁ、何があったかしらないけれど、こっちへきて温まりなさい、と。
さっきの男は?
あれ、あれはね、あなたが善良な人なのか悪者なのかを聞いて、悪者ならば海に引きずり込む役の亡霊だ、と。
ここは?
さぁさぁ、こっちに。
ここにきて。
そこは、とても温かい小さい家だった。
真ん中に囲炉裏があって暖かかった。
さぁ、こちらに来て横になりなさい。
私は倒れ込むようにそこに横になった。
さっきのおばさんが、私の濡れた服を脱がしてくれた。
そして暖かいタオルで全身を拭いてくれて。。。
そして、私はその布団の中で。。。
寝物語に言われたことはこんなことだった。
あなたは、まだ、元の世界に戻れたわけじゃないのよ。
さっきの男は、そうね、あなたの世界では閻魔様とか言われる時もあるわね。
どこからか、あなたはこっちの世界に来てしまったのよ。
あなたが知らないだけなの。
この辺りはね、たまに人が迷い込むの。
ほとんどの人は、そのままこっちの世界に残るわ。
あなたは200年ぶりくらいかしらね、この布団で眠れているのは。
この布団に寝れた人は戻れるんですか?
あなた次第ね。
もし、あなたが生きたいと思ったら、そうね、それでも難しいかもしれないけれど、もしかしたら、戻れるかもね。
私はここから元の世界に戻った話は聞いたことはないけれど、近所のおじさんが言ってた。
400年ぐらい前に、ここから海でもこの土地でもなく別な土地に行ったって。
その人は元の世界に戻れたのかもしれないわ。噂だけど。
じゃあ、あなたも、ここに来た人なの?
可愛いわね、あなた。
そうよ。ここに来て、もう長いわね。もっとも年は取らないからここは。
何かつらいことがあったんですね。
そうね。つらかったわ。そのつらさは、ここに来てほんのちょっぴりだけ少なくなったけどね。
今日ね、あなたを見ていてね、あ、この人は、ここの新しい住人になれる人だ、ということはわかったのよ。
でも、ほかのおじさんたちが言うのよ。
いや、この人は、元の世界に戻れる人かもしれない、ってさ。
そうですか。
生きたいと思えば戻れるかもしれないんですね。
簡単じゃないわよ。
私のテクニックから逃れた人はそういないんだから、元の世界ではね。
その声を私は遠い夢の中で聞いていたような気がした。
そして、遠くからおじさんたちの声が聞こえた。
閻魔の方がまだ元に戻れるチャンスがあったかもしれないよな。
あー、そうだな。
閻魔なら即決だったもの。
あの男は、しばらくもて遊ばれて、喰われるかもしれないからな。
まぁ、ここにきたあいつの運命だから仕方がないけどな。ふふふ。
しばらくまた楽しめそうだな。
そうだな、ここは退屈なところだからな。
そんな夢を見た。
by WofNaka
| 2021-01-01 13:04
| 夢の話
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